妊婦加算の考察

妊婦加算をめぐる動きを時系列で並べてみました。(下表参照)

 

最初に出てくるのは2017年10月11日の中央社会保険医療協議会で、「リスクの高い妊娠管理に対する診療報酬上の評価」として特に、外来管理に焦点を当てたものでした。

その後、何を適用対象とするのかとの意見があったものの、導入については反対意見は委員からも、パブリックコメントでもありませんでした。

こうして2018年4月1日より診療報酬の適用対象=妊婦さんへの医療費としての加算請求が始まりました。

そして、、、半年以上立って突然火を吹く事態になります。

インターネット検索で最も早い時期に批判に触れているのは、情報速報ドットコムの2018年9月7日の記事のようです。

 

これらの批判的な意見を受けて、厚生労働省は2018年11月2日に「妊娠中の健康管理及び妊婦加算の周知について」を協力依頼として通知します。

その後日経では2018年11月29日にこの通知に沿った形の記事を掲載しました。

厚生労働大臣も翌11月30日に記事内容を踏襲した発言をしています。

 

しかし12月に入って妊婦加算維持の動きは止まります。

2018年12月14日に厚生労働大臣が運用上の問題(妊婦のコンタクトレンズ処方での加算請求)があることを説明しました。

続いて2018年12月21日に厚生労働大臣は妊婦加算の2019年からの適用凍結を発表します。

 

民意による政策変更実現の好例となりました。

 

なお適用凍結の説明の中で、厚生労働大臣は妊婦への診療評価のあり方を改めて議論するとしています。それが2019年2月15日に初会合が開かれた「妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」です。

 

このように妊婦加算は二つのコミュニケーションの失敗によって適用凍結になったと言えます。

(1)妊婦に対しては周知期間の短さ+ネーミングが引き起こすネガティブイメージ=妊婦税

(2)医療機関への適用条件の不徹底。(診療報酬上乗せの隠れ蓑で使おうとした?)

 

また経緯を見るとどうもコミュニケーションの失敗だけではない問題も見えてきます。

それについては次回。

2017/10/11中央社会保険医療協議会総会

リスクの高い妊娠管理に対する診療報酬上の評価

妊娠中に産科疾患以外の疾患で外来を受診した場合、妊娠の継続や胎児に配慮した診療等、様々な合併症等を考慮した適切な診療が必要となることから、妊婦の外来管理に対する評価を検討してはどうか。

また、精神疾患を有する妊婦に対して、地域において、産科と精神科、自治体等が有機的に連携して患者の診療を行う体制の推進に資する評価を検討してはどうか。

2017/12/22 中央社会保険医療協議会総会

妊婦の外来管理に対する評価は、対象となる疾患の範囲について検討する必要があると思われます。」との支払い側意見

2018/1/10  平成30年度診療報酬改定に係るこれまでの議論の整理(案)

「妊婦の外来診療について、妊娠の継続や胎児に配慮した適切な診療を評価する観点から、初診料等における妊婦加算(仮称)を新設する」

上記案へのパブリックコメントを募集

2018/1/26中央社会保険医療協議会総会

妊婦加算の新設説明に対して、出席者から賛成/反対意見なし

2018/1/31 パブリックコメント結果

小児医療、周産期医療、救急医療の充実に関するパブリックコメント14件のうち、公表5件は小児医療について。残り9件に妊婦加算に関するものがあるかは公表されておらず不明

2018/4/1 妊婦加算の適用開始

2018/11/2妊娠中の健康管理及び妊婦加算の周知について(協力依頼)  通知

日経2018/11/29 妊婦への医療費、上乗せを

厳格化、厚労省が検討

2018/11/30厚生労働大臣定例記者会見

厚生労働省としても、妊婦加算について、その趣旨に反するような算定は適切ではないと考えており、その旨を明確化する方向で検討しています。

日経2018/12/06 妊婦加算は「妊婦税」?、負担

上乗せ、ネットで批判。厚労省が見直し検討

日経2018/12/13妊婦加算、実質ゼロに、医療費

負担増、批判に対応、厚労省方針

日経2018/12/14妊婦加算、実質ゼロへ、凍結を軸に検討、厚労省

厚労省、妊婦加算凍結を表明

2018/12/14 厚生労働大臣定例記者会見

・・・こうした診療に積極的でない医療機関も存在しておりました。例えば、熱を出して内科を受診した妊婦の方が、産婦人科を受診するよう勧められたことや処方された薬が安全か否かを確認するため、産婦人科の主治医の受診を促されたといった事例です。妊婦加算は、こうした問題や、日本産科婦人科学会などからの要望を踏まえ、通常よりも丁寧な診療を評価する観点から、平成30年度診療報酬改定において新設したものです。これにより、妊婦の方の診療に積極的な医療機関を増やし、妊婦の方がより一層安心して医療を受けられる体制の構築につながることを期待しておりました。しかしながら、この妊婦加算については、十分な説明がないまま、妊婦加算が行われている、コンタクトレンズの処方など妊婦と関係ない場合であっても、妊婦加算が適用されているといった運用上の問題が指摘されました。

日経2018/12/19妊婦加算凍結、来月から

2018/12/21 厚生労働大臣定例記者会見

妊婦加算については、いったん凍結する判断をし、19日の中医協に諮問しました。これに対し、同日、妊婦加算に対する誤解と不安がある現状においては、凍結の措置もやむを得ない、との答申をいただいたところです。あわせて、妊婦の方々が安心できる医療提供体制の充実や健康管理の推進を含めた総合的な支援について、有識者も含めてしっかりとご議論いただくこととし、その上で、妊婦の方への診療の評価の在り方について、改めて中医協で議論していただきたいと考えています。

2019/2/15 妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会初会合