7月第1週は、遺伝子検査について報道各社が取り上げた。
例えば7月5日付の読売新聞
「将来の子」遺伝病検査、商業主義に懸念...学会が批判・声明発表へ との見出しで、
「声明では、検査結果が妊娠や出産の判断に影響し、「生命の選択」につながる可能性があると指摘。遺伝子スクリーニング(ふるい分け)に慎重な姿勢を続けてきた従来の流れに逆行しており、「民間企業が、遺伝医療の専門家がいない医療機関を通じて実施することがないように」と強く求めている。」
と記しています。
それから7月12日付のダイヤモンドオンライン
がん治療での遺伝子検査を保険適用か、医療財政破綻の懸念も とのタイトルで、
「厚生労働省は、がんに関連する複数の遺伝子異常を一括で調べる「パネル検査」について、2018年度中に公的保険適用を目指す方針であることが分かった。
パネル検査は、100以上の遺伝子の異常を一括で調べることができる。現在は、患者が全額自己負担する自由診療で、費用は約60万~100万円と高額。実施する医療機関も少なく、全てのがん患者がその恩恵を受けることは困難だった。」
と記しています。
後者はがん治療での分子標的治療薬の選択を目的とする、前者は命の選別、商業主義への懸念表明ということですが、これらの記事は前提として、遺伝子の異常=(確実に)病気もしくは障害として現れるとの考え方があるといえます。
命の選別ということでは、出生前診断が行われている現状では的外れな指摘に思えます。
また商業主義という点も、では公的保険適用で医師が関与すれば認めるのかと読むこともできます。
リスクがあるなら極力なくしたいと考えるのが自然な判断・行動と思いますが、そのリスクが
「許容できるリスク」
なのか
「許容できないリスク」
なのか
を判断するという観点がすっぽり抜け落ちているのではないでしょうか。
つまり、遺伝子の異常=(確実に)病気もしくは障害として現れるとの考え方は、「許容できないリスク」しかない。
ところが、どうも「許容できるリスク」が存在するようです。
例えば2017年3月のサイエンスマガジンに発表された記事
そこでは、がん化の最大の要因はDNAの複製エラーであって、遺伝要因は5%、環境要因は29%という研究結果が
掲載されています。
この通りであれば、少なくともがんの場合、がん関連遺伝子があっても、それが100%がん化(つまり悪性)するとは結論づけられないということになります。
リスク遺伝子がある=100%発現する=100%取り除く
というゼロ・イチのデジタル思考こそ問題であって、健康リスクコミュニケーションの取り方を社会的にも、医療界としても見直すことが求められているのではないかと感じるのでした。