ヘルス・キャズムとポイントビジネス

各種報道発表にある通り、東京海上日動あんしん生命保険の「あるく保険(新医療総合保険、健康増進特約付加)」は、1日あたりの平均歩数目標8,000歩を達成していれば、期間満了時に健康増進還付金を支払うというものです。
NTTドコモとの共同開発とあることから、本商品はポイントに応じた商品交換という健康マイレージの枠組みを、ポイントに応じて還付金を支払うという形に変更したものであることを類推できます。

そして支払スキームは2年間で60歳が上限。2017年4月3日の東京海上日動あんしん生命保険のプレスリリース資料には、還付金額がいくらかの記載はありません。保険本体が解約返戻金なしですので、保障範囲が不明ですが還付金原資は保険料から捻出するスキームと考えられます。
どうしても専用端末の利用という考え方からは脱却できないところに、

誰のための商品・サービス?

という思いを強くしてしまいます。まあ、運動・食事・睡眠に言及していることから、アクティビティトラッカー分野での損害保険をめざしているのでしょうね。

また、保険提供側としては安全に運用できる枠組みなのでしょうが加入者側にとって、
「費用の先払いと不確定な将来の満期払い戻し」の組合せモデルがどの程度魅力的に見えるかが鍵となるものと思われます。
保険料払込みから満期返戻までの10年間を2年ごとに分割して支払うことが、ターゲットとする方々に魅力的なインセンティブとして受け入れられるのかにかかってきますね。

 

ヘルスケア分野でキャズムというと医学研究と臨床医療間に質の差があると指摘した、Crossing the Quality Chasm を連想する方が多いと思いますが、社会の健康テイスト化という中でのキャズムもあると思います。

それは、

【医学的な有意性、エビデンスを強く重視する場合】

と、

【それより、利用者の健康向きの行動変容を重視する場合】

とです。

ヘルスケア分野のサービスデザインの考え方としてどちらを採用するかは、とても重要です。

 

【医学的な有意性、エビデンスを強く重視する場合】⇒⇒⇒データ主導(Data Driven)となるため、工学的なPDCAサイクルを用いた、品質のつくりこみ(=精度向上)アプローチの採用に傾斜する。

その結果、扱う数値(変数)が少ない、同質性が高い方が精度管理には向いているため、情報サイロから抜け出せないと同時に、データの有意性、つまり利用者の健康度が改善し、少なくとも保険医療費支出が減少していることを立証できる確固たるエビデンスが得られない。翻って、従来型の経済インセンティブであるセルフメディケーション税制が創意工夫の結果となる。

従って、デジタルデータの特性であるスケーラブル・ソリューション(Scalable Solution)の提供を困難にしているのではないか?

 と考えられるからです。

これに対して、

【それより、利用者の健康向きの行動変容を重視する場合】⇒⇒⇒利用者巻き込み(User Involving)となるため、データ以上に利用者の利用刺激アプローチを採用できる。

範囲を広く取ることで、利用者に様々な形で利用刺激=行動変容を促すことが出来る。

良くも悪くも、結果オーライなところは否定できませんが、エビデンス重視に比べて利用者の関与がし易いと言えます。

 

日本では自治体も企業も【医学的な有意性、エビデンスを強く重視する場合】に依拠したサービスデザインとなっています。

その典型が自治体、企業のが提供しているウォーキングマイレージサービスではないでしょうか。

なぜ【それより、利用者の健康向きの行動変容を重視する場合】の事例と言える、Walgreen のBalance Reward のようなサービスが存在しないのでしょうか。

 

Balance RewardはドラッグストアのCRM(Customer Related Marketing)のツールとして2012年より使われているポイント、マイレージサービスに健康向きの選択-身体活動と購買活動で構成-を組合わせたプログラムです。健康ポイントプログラムはBalance Rewards for Healthy ChoicesとしてBalance Reward内のサブプログラムとして存在しており、ポイントは上位のBalance Rewardとして利用する設計です。

アクティビティトラッカーを切り出して、情報サイロ化しているウォーキングマイレジサービスとは対照的ではないでしょうか。

日本のドラッグストアチェーンのホームページをみる限り、現在Balance Rewardに相当するプログラムは確認できませんでした。

  

-Balance Rewards for Healthy Choicesより一部抜粋。注記は省略。  

  ・健康目標の設定:250pt   ⇒⇒ ・健康目標の達成:250pt

  ・徒歩、ラン、自転車:20pt/マイル  ・運動:20pt/日

  ・血圧測定:20pt/日                               ・血中グルコース測定:20pt/日

                                                                                          ※Balance Rewardの利用者数(6ヵ月以内の利用者)は2016年8月31日時点で8,740万人!

 

 

【医学的な有意性、エビデンスを強く重視する場合】と、【それより、利用者の健康向きの行動変容を重視する場合】のどちらに基づきサービスを設計するか?サービスの自由度と拡張性に軸足を移したscalable solutionの視点が必要ではないでしょうか。

因みにわたしは健康マイレージには懐疑的な意見の持ち主ですけれども、そんなわたしが考えた健康マイレージのアイディアはこれです。(ここは)2017年5月29日に追記しました。