ヘルスケアダッシュボードとレゴブロック

前回、アクティビティトラッカーに触れた続きとして、もう少しユーザーエクスペリエンス(UX)について記すことにしました。

わたしは、SUUNTOのT3、Oregon scientificのSE332、ふたつのベルト型心拍計セットの時計から測定をはじめました。このふたつはほんと、時計の内蔵メモリに記録するだけという使い方で測定値の有効活用(二次利用)をデータ分析を通じた自身へのフィードバック情報の提供という形では行いませんでした。早朝に走ることが多いので冬場のベルトのひんやりした装着感と季節問わず走った後の汗のべたつきが不快でしたので、fibitのHR(一応、SUUNTOのT3と同時測定して計測値が同じことを確認)にを購入してからはベルト型は使っていません。

その後距離データも欲しくなるものの電池駆動のGPS計測機能付き時計の電池寿命の短さから購入を敬遠したところに、低価格USB充電という電池交換の煩わしさから解放してくれるアシックスのGPSランニングウォッチを購入し、最近まで左手にランニングウォッチ、右手に心拍計をしていました。最近までというのはfitbitHRが壊れてしまったからです。給電しようとUSBコード経由でPCにつないだものの無反応、しばらく??となりましたがディスプレイ部とバンド部の接合部分を割ってしまったようです。

このように、アクティビティトラッカーのハードウェアとしてのUXを、

①装着感が不快な心拍ベルトからの解放

②煩雑な電池交換からの解放

というデザインのプラス変化として、同時に

③時計型ではないアクティビティトラッカーの筐体は強度が足りない

というデザインのマイナス変化の形でわたしは経験しています。

 

次にソフトウェアインターフェースといえる、計測データを表示するダッシュボードについて。

上述した通り、わたしはアクティビティトラッカーに記録された測定値を二次利用したことがありません。率直にいえば二次利用に対する欲求がない。それは二次利用で得られた情報を利用することで得られる便益への要求がないからかもしれません。また測定値を加工することに楽しさを感じていないこともあります。

というのは、

-「自身の運動経由で改善できる健康上の自覚できる不安がない。」

-「フィードバックを使って自身の運動パフォーマンスを向上したい意欲がない。」

からです。体を動かすついでに記録する、いわばながら記録利用者。同じコース、同じ距離の過去ログと時折比較して、差分についてあれこれ考えをめぐらす程度で十分に利用者としての満足度があるのです。

ヘルスケアPSS(プロダクトサービスシステム)を考える上ではわたしタイプのユーザーはまことに厄介者といえますが、市場を拡大する上では克服しなければならない壁でもあるといえます。

またすべてのユーザーに共通して、「ユーザーは記録データ(主に数値)を参照して何をしたいか?」に基づく情報フィードバックデザインが必要ではないでしょうか。これまでは、「ユーザーは必ず何かしたいから記録する」という仮定での情報フィードバックデザインとなっているため、わたしのようなユーザーはハードウェア利用にとどまってしまう。(製品購入だけで十分かもしれませんが)

脱線しましたが、アクティビティトラッカーのダッシュボードに戻りましょう。わたしが経験しているfitbitとアシックスのふたつのダッシュボードに基づいた内容になります。

●記録データの取り込み

fitbitはPCのUSBを専有するものの(専有でない利用も可能)、アクティビティトラッカー内の記録データを無線でダッシュボードに取り込み、自動更新してくれるという点で、利用者をデータアップロード作業から解放してくれます。アシックスにはこの機能はありません。

●記録データの表示”ダッシュボード”

ダッシュボード表示項目はどちらもデフォルト設定が全項目表示となっており、しかも項目を減らすオプトアウト機能は見当たりません。つまりダッシュボードを利用者は自由設計できないことになります。

これは測定項目を健康の構成要素=ビルディングブロックとみた場合、ひとつでも欠けてはいけないということでは的確でしょうが、その一方で構成要素の欠落が健康に及ぼす悪影響については何ら説明されていないという、ある種の矛盾した状態にあります。運動を含む日常生活行動+食事+睡眠データの記録がユーザーの健康状態にどのような変化・影響をしているかについて、ユーザーが納得できる説明がなされない限りは、ビルディングブロックを自由に選択できるオプトアウト型を提供することが求められるでしょう。例えばわたしのように睡眠時は計測しない利用者には睡眠項目は不要以外の何物でもないので、見ないようにするよりは表示されていない状態の方が満足度の高いユーザエクスペリエンスになります。

かなり唐突ですが、レゴブロックに例えてみます。ブロック玩具全般でもいいです。

      ダッシュボードのデフォルト表示を全項目表示→→→ブロック組立て済の完成品

「組立てる楽しさ」を「計測」と位置付けているのかもしれませんが、組み立てる楽しさをもっと重視する方がユーザーエクスペリエンス(UX)には大きく作用すると考えられます。またビルディングブロックであれば、ユーザー単位での情報の記録・収集以外にも項目単位での情報の記録・収集に立ち位置を移しても混乱や問題が生じないのではないでしょうか。ユーザー単位から項目単位への移行は、ヘビーユーザーからライトユーザーまで、ユーザー階層別の情報マネジメント・情報フィードバックも可能になるでしょう。このように、ユーザーが必要に応じてダッシュボードで記録する項目を追加・削除できると、プラスのユーザー体験となるのではないでしょうか。

アクティビティトラッカーのサービスデザインにはハードウェアの使勝手だけでなく、ソフトウェア面でも見直しの余地が大きいと言えるでしょう。